Ⅰ.序
昨今の経済のグローバル化に伴い、企業間の国際競争は激化し、各企業は、自らの技術や知的財産について、オープン・クローズ戦略[1]を用いて活用するに至っている。他方で、近年、大型の技術情報が退職者を通じて相次いで国外に流出したり、大量の顧客情報が、サイバー空間の拡大に伴い転々と流出したりする[2]など、企業の営業秘密の漏洩リスクが顕著になってきている。
このような状況を受けて、政府は、第189回通常国会に、「不正競争防止法の一部を改正する法律案」を提出し、同法案は平成27年7月3日に成立し、同月10日に公布された。
この改正による改正項目は多岐にわたるが、刑事面での改正点としては、①営業秘密侵害罪の罰金刑の上限の引上げ、②営業秘密の転得者に対する処罰規定の整備、③営業秘密侵害品の流通規制の導入、④営業秘密侵害罪の非親告罪化、⑤国外犯処罰の拡大、⑥営業秘密侵害罪の海外重罰化、⑦未遂罪の導入、⑧任意的没収規定の導入等が挙げられる。
また、民事面での改正点としては、⑨推定規定の導入、⑩除斥期間の延長等が挙げられる。
[1] 企業が、技術などの知的財産を、他社に公開又はライセンスすることで自社技術の標準化を狙うといったオープン化を行ったり、営業秘密としての秘匿化や特許権等による独占的実施といったクローズ化を行うことによって、戦略的に知的財産を活用すること。
[2] 新日本製鉄(現・新日鉄・住金)の門外不出とされた方向性電磁鋼板の生産技術に係る営業秘密が、韓国メーカーであるポスコに不正取得、使用されたとして、ポスコに対して不正競争防止法に基づき、1000億円の損害賠償を求めて提訴した事件(本年9月30日に300億円で和解)、東芝のNAND型フラッシュメモリに係る営業秘密が、同じく韓国電機メーカーであるSKハイニックスに不正取得・使用されたとされる事件(昨年12月に約330億円で和解)、ベネッセの顧客情報3500万件余りが、委託先を通じて流出し、複数の名簿業者の間を転々流通したとされる事件等。
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